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新緑の頃、母をつれて旅にでた(黒川温泉)<2>

    心の洗濯をした後、阿蘇スカイラインから、大観峰展望所に着く。眺めの雄大さに感動した徳富蘇峰により名付けられたというその場所は、感動するには、あまりにも強い風が吹いていた。髪の毛をばふばふ(?)にさせながら見ていた母の視線にとまったものは、孫が食べていたとうもろこし。
    『おばあちゃまにもちょうだい?』
    『いいよー。』
    いつもは、孫におこづかいをくれるおばあちゃまが、孫からとうもろこしをもらって、食べている。香ばしいおしょうゆの香りが車いっぱいに拡がる。子どものように、嬉しそうだった。

    車はミルクロードを通り抜け、瀬の本から黒川温泉に入った。     黒川温泉は、1200円の入湯手形で、3ヶ所まで、どの旅館でも入湯が楽しめるというユニークなシステムがうけて、今や、全国区の温泉である。30近い旅館のそれぞれが、趣向を凝らした露天風呂を持っている。旅館の規模はさほど大きくはないが、しっとりとして、落ち着いたたたずまいには、どこか、自分の田舎の家にもどって来たような落ち着きを感じる。

    今日は、そんな旅館の中でも、お気に入りの”山みず木”を母のために用意した。予約の受付は6ヶ月前から始まるが、受付開始と同時に予約をいれないととれないくらいの人気旅館である。温泉街からは少し離れるが、すぐ横を川が流れ、視界に入るものは、その川と緑深い山のみ。大露天風呂からはもちろん、お部屋の風呂からも、外からの視線を一切気にせず(敢えて言うなら、山に生息している(?)イノシシの視線くらいだろうか)、 景色を楽しみながら入ることが出来る。
    部屋に落ち着いて、少々疲れたのか、母は、静かに外の景色を見ている。ここでも、緑は、初々しい。新芽が、風に吹かれて、奥ゆかしく、歓迎のそよぎを奏でる。

    この静かな時間・・・。
    人は一生の中で、こんな静かな心穏やかな時間を、どれだけ持てることだろう。同じ気持ちで同じ物を見る、感動を共有できるのは、なんて素晴らしいことだろう。

TEXT/椎名 まこ
E-mail : nagi@nagi-web.com