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済州島で、アイデンティティについて考える<4>

    あまりの部屋の素晴らしさと、親切に、心から感動した。ロッテホテルが、きちんとしたいいホテルだから、できるだけ客の要望に応えようと努力してくれたんだと思うけれど、私の中では韓国が輝くのを感じた。韓国の人はいい人だ。過去の暗い歴史はきちんと受け止めているけれど、だからと言って、責める訳ではない。憎む訳でもない。人間として、もう一人の人間にきちんと向かい合って、できるだけのことをしてあげようと思う、その心。一人の韓国人の親切で、私は韓国の人全部を好きになってしまった。国を代表するというのは、こういうことなんだ・・・。ふと思った。私自身が、国を代表する、なんて思ったことがあったろうか。私は国を代表し得るのか?     フロントへ鍵を預けに寄ると、ハンさんが、にこにこ笑って聞いた。お部屋気に入りましたか?     サッカーの競技場を見に行きたいんだけど・・・。コンシェルジェデスクに尋ねると、『?』相手は無言で、不思議そうな顔。『ただ、工事してるだけですよ。』『なんかこう、もうすぐワールドカップだ、っていう盛り上がりはないんですか?』『あと500日をきった時にイベントはありましたけどねえ・・・。』そう言って、周りのスタッフに韓国語で何か尋ねているが、みんな、困惑した表情。何か言ってあげたいが、言う言葉がみつからない、そんな顔だ。いいんだ、いいんだ、それでも、競技場、行ってくるけんねー。

    西帰浦市は人口8万人の済州道では2番目の都市だと聞いた。のどかな町だ。手付かずの自然の中に、ぽつぽつと焼肉屋さんの看板が見えている。道はやたらと広い。あちこちで、工事をしている。ワールドカップのために、今整備中とのこと。20分ほど車で走ると、それは、見えてきた。強い風をさけるために、地上から14㍍掘り下げたところにピッチがあり、それを囲んでスタンドがそびえるその姿は、巨大な噴火口のようにも見える。スタンドを半分ほど覆う屋根は魚網を、競技場全体は、風を受けて進む帆船をイメージしているのだそうだ。収容人数は、42200人。12月の完成をめざし、今、急ピッチで、工事が進んでいる。

    ここでワールドカップを行うことには、済州島を”世界の観光地”と改めてアピールしたいという韓国の思惑が、強く働いているらしい。(韓国筋の話だとここは、東洋のハワイだそうだ。)大丈夫、ワールドカップはきっと成功するよ。済州島も、世界の有名リゾートの仲間入りをして、その名をアピールできると思うよ。冬がちょっと寒いのが難点だけれど、ここには、心があるから・・・。

   帰国の日、辛さんが空港まで送ってくれた。自分のいちばん好きな言葉は何?の問いに、うーんと悩んで、『古語だけど・・・シナフロ かなぁ。 あるがままを受け容れるという意味。運命は自分で切り開いて進むものだと思うけれど、その一方で、あるがままを認めるというのは、大切なことだと思う・・・。』ぽつり、ぽつりと考えながら話す辛さんの言葉は、矛盾していそうで、なんとなく分かる気もした。苦難の歴史を持つ韓国の人の、屈しても屈しない強さと、人を受容する心の大きさと豊かさの象徴のような気もした。

    今回の旅は、異国に行って、自国を思う旅になった。自分は自分の国のことをどれだけ知っているのか、自分のアイデンティティとはなにか。そうだ、来年の6月には、本当にチェジュにワールドカップを見に来よう。ロッテホテルに泊まって。(誰かチケットまわしてくれない?)

TEXT/椎名 まこ
E-mail : nagi@nagi-web.com