取り合えず荷物を預けて、レンタサイクルを借りる。3時間500円。そして、海の中道海浜公園へ。この広大な公園ほど、サイクリングにぴったりのところはない。一方通行の自転車専用道路が整備されており、ポイントには、きちんと駐輪場もある。風と緑を楽しみながら、自転車は、ゆっくりと進んでいく。
動物の森では、40種500匹もの動物が飼われている。放し飼いで飼われているものも多く、触れ合うことができる・・・筈だけれど、やっぱり動物たちは、人との接触を避けて静かに暮らしたいらしい。
人気のない静かな植栽の片隅で、自分たちの暮らしを育んでいる。 「♪♪アーーー、アーーー♪♪」いきなり近くで聞こえる孔雀の鳴き声。孔雀と対話していた(?)夫殿の声だった。傍には、「孔雀ってこんな風になくのねえ。」と感動するおばさん。吹き出すのをこらえて、遠くへ走る息子。孔雀はあちこちでいっせいに、返事を返す。森に響く孔雀の声。
野鳥の森では、野鳥の観察をし、いこいの森では、静かに憩う。子どもの広場では、子どもと共に遊び、ワンダーワールドでは、大観覧車とジェットコースターを見上げ(怖いからのらない)、大芝生広場に、寝っ転がる。宇宙に続くどこまでも青い空が、拡がっている。
婚約者の裏切りに遭い、やや自暴自棄気味に赴いた戦地の前線にいる、アンドレイ公爵。ナポレオン指揮下のフランス軍の攻撃を受け、戦場で砲弾を浴び、死を目の前に感じつつ、見上げた空に思うことは、何だったのか・・・。
『あわれみ、兄弟たちや愛する者たちに対する愛、われわれを憎む者に対する愛、敵に対する愛―――そうだ、これは、地上に神が説いた愛だ』(「戦争と平和」より。)
空を見上げる時、ふと思い出すこの場面。私の中の空は愛だ。愛を称える調べは、孔雀の声か・・・。ううむ。
きっかり3時間で、海の中道ホテルに戻ってきた。ばさばさの髪と震える足でレンタサイクルを返却し、次にマリーンワールドへ。吹かれた風の余韻を心地よく感じながら。
マリーンワールド。「対馬暖流」を展示テーマとして作られたその水族館には、約350種、20000点の海の生物が展示されているという。水族館は、その地それぞれの特性を生かし、また、その館独自のスタッフの愛情や、心意気が感じられて、私はとっても好きだ。沖縄の水族館では、巨大なジンベイザメを飽きず眺め、ハワイの水族館では、1cmほどの小さなヤドカリを愛しむように手に乗せてくれたスタッフがいた。天草では、桟橋の上から多量に見えていたクラゲが、きちんと水槽の中にも収まっていた。
イルカの水槽を、ガラス越しに見れるレストランで、水中のイルカを眺めながら、小休憩。アイスコーヒーにアイスクリームを突っ込んで作った、オリジナルのコーヒーフロートを飲みながら、イルカのせわしい動きを目で追っていく。ガラスの向こう側とこちら側。同じ空間のなかの、異の世界。
TEXT/椎名 まこ
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