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海の中道ホテルで自転車にのる<1>

    季節が巡っていく中で、決まった時期になるとしなくてはいけないものがあって、妙に落ち着かなくなることが、時々ある。人によってそれは、キムチをつけることであったり、イルカを見に行くことであったり、栗を拾うことであったりするだろう。私の場合、何故か、体育の日に自転車に乗ること、である。
    1966年から永い間、体育の日はきっぱりと、10月10日であった。今は、不思議な法則により(単に10月の第2月曜日に変更になったと言う訳か・・・)毎年その日が変わるため、10月10日自転車に乗るの法則は、その存在自体が危うくなってきたけれど、まあここは、フレキシブルに対応することにしよう。

    太陽が肌をじりじりと焼く季節が漸く終わり、疲労した身体を吹き抜ける朝の風の爽やかさに深まりゆく秋を感じる頃、ひたすら自転車に想いを巡らせ(?)、旅に出る。

    かれこれ10年ほど前になろうか。当時日本にはないといわれた、L.L.Beanのマウンテンバイクをもらった。車を買ったら、そのおまけにくれるというから、それに惹かれて車を買ってしまった訳だけれど。そのマウンテンバイクがやってきたのは、やはり、青空に爽やかな雲が流れていた、秋のある日のことだった。四駆の大きな車の屋根の上に、かっこ良く載っかって、それは来た。何段だかすごいギアがついていて、走りながら切り替えるのが珍しくて (ギアのついた自転車なんて乗ったことがなかったのですよ)、家の前を何度も走った。お向かいのおばさんに、”自転車の練習ですか?”なんて、真面目に聞かれるものだから、”そうです。”と真面目に答えた。しかし、車の上に、重たいマウンテンバイクを載せるのは一苦労で、そのために、新しい脚立と、強い筋力が必要だった。更に、自転車を載せた車の高さは、3メートルほどにもなり、あちこちの天井に激突(?)しながら(ぶつかった皆様、ごめんなさい)走らなければな らなかった。あまりの運搬のたいへんさに、自転車を運ぶことは次第に減り、ほこりを被ったL.L.Beanは忘れられていったけれど、この季節だけは自転車を思い出す。

    車は、快調に高速道路を古賀まで走り、和白から何だかほこりの多い一本道。かつて、福岡国際マラソンでは、宗兄弟や、瀬古選手が(古い話で恐縮です)、強い風を受けながら、この道を走っていった。そして、ホテル海の中道が見えてくる。入り口を入ると、正面のガラスから明るい陽光がさし、その向こうに広い芝生の庭が見えた。明るい陽光と、フロントの人の笑顔は、さわやかな秋のスポーツデーの始まりを予感させてくれた。

TEXT/椎名 まこ
E-mail : nagi@nagi-web.com