全く現実から隔絶している時間と空間。子どもの頃のキャンプを思い出してしまうような、妙にうきうきする時間だった。
車中で仮眠。昨夜の闇のうごめきは嘘のように、さわやかな冷気があたりを包む。健全な朝だった。私たちは、正しく朝の挨拶をして、この荘厳にして、エネルギーに溢れた空気を、いっぱいに吸い込む。多少からだの節々が痛むのを除けば、そして、自分たちがもう少し寝ぼけていないなら、完璧な朝だった。日が昇りきってしまう前の山の散策を楽しみ、思い思いにスケッチなどして、高森駅へ向かった。
高森~立野間17.7㎞、標高差200mを、1時間かけて走る鉄道がある。いわゆるトロッコ列車とよばれるやつで、そのオープンスタイルの列車からの景色は雄大、風はさわやか(らしい)。これに今から乗ろうという訳だ。
駅は、静かな田舎の駅のイメージからは程遠いほどの人であふれ、乗車券を求めて長い列ができていた。
“二列にお並び下さーい。”
“発売時刻までもう少し、お待ちくださーい。”
そんなに言うくらいなら、さっさと、販売を始めればいいのに。現場の状況を見ないで決めたお役所仕事みたいだね・・・。
しばらく並んで、やっとの思いで、トロッコ列車に乗り込む。壁から幅40㎝、長さ1mほどの板が、段違いに突き出している。ああ、これが、テーブルとイスね。テーブルには、30cm位の間隔で、番号が3つうってある。ううむ、確かに指定席。大人3人で座れば、3人目の人は、半分お尻がはみだしてしまう、うなってしまう指定席であった。指定席が埋まると、次は自由席。通路に人がどっとやってきた。身動きが出来ない状況になって、列車は、ついに出発した。
殊のほか、揺れが激しい。結構、暑い。身動きはできない。外の景色は、人で見えない。そんな客とは無関係のところで、車掌さんの明るい声が響いている。ベテランの車掌さんは、こうして、毎日同じことを話してくれるのだろう。冗談でさえ、同じところで言うんだろう。来年来ても、きっと同じことを、話しているのだろう・・・。
TEXT/椎名 まこ
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