

≫インタビュー(2)
九州大学[教授・核融合研究家]伊藤智之さん
時は20余年前、1978年にさかのぼる。希望と意欲に燃え、九州大学に名古屋からやって
きた若い教授は、トカマク型強磁場プラズマ実験装置、TRIAM-1(トライアム・ワン)を作った。高く評価されたその装
置の優秀性は、昼夜を問わないハードな実験と熱心な研究の賜物であった。
そして、そのデータを踏まえ、詳細な検討と設計の末、1986年、TRIAM-1をステップアッ
プした、TRIAM-1M(トライアム・ワン・エム)を建設。これは、世界で初めて、トロイダル磁場コイルにニオブ三錫超伝
導線材用いた、画期的なものであった。本体と並行して、各種電源装置、冷凍機システム、超高真空排気システム、フィ
ードバック制御システム、データ処理システムなどの製作、整備も進められ、超伝導総合装置において11万ガウスの高
磁界達成、超伝導システムの100日以上の連続運転、さらに、2時間を超えるプラズマの連続運転、世界最高のプラズ
マ密度達成など、先駆的世界記録を次々と作り、世界をリードしてきた。
教授は、すでに先を見つめている。彼のプロジェクトは、まだ終らない。今後は、TRIAM-1Mを
高性能に改造したTRIAM-1MU(トライアム・ワン・エム・ユー)で、大電流駆動を実現し、熱核融合実験炉へ向けた定常
化研究の橋渡しの役割を担う。
彼の敬愛する師のもとを離れ、遠く九州に根を下ろす決意をした時から、壮大な構想を画き、
その実現と、自らの信じる仮説の検証にひたすらに走ってきた。"胃の痛くなる思い"も1度や2度ではなかったろう。
誰よりも早く研究室にやってきて、論文を読み、たくさんの書類を仕上げる。文部省に行き、大蔵省にも行く。
メーカーとの打ち合わせもてきぱきとこなし、自ら実験の陣頭指揮も執る。彼のその熱い思いと、彼を支える研究者たち
の存在が、トライアムの今を作った。見えない多くのドラマは胸の奥にしまって、彼は、"彼のプラズマ"を眺める。
その教授も、この3月で、定年を迎える。しかし、彼の育てた、あるいは、いっしょに走って
きた研究者たちに、彼の思いは受け継がれていくだろう。もっとも、彼にとっては、定年でさえ、ただの通過点
にすぎないのかもしれない・・・。
うちの電気が核融合炉で灯るのはいつ?・・・のどまででかけたその質問を、私は静かに飲み
込んだ。敢えて聞かずに。また、トライアムの話を伺う時まで、楽しみにとっておこう・・・。
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