このカテゴリの目次へ
「にんげん」に優しくなれる瞬間(第5回)

[援助者への思い−1]

   連載5回目です。今回は少々おこがましいのですが「援助者」と言うテーマで考えを述べたいと思います。私は、社会福祉という技術を使うソーシャルワーカーとして、生活困難状況に陥った方々の援助をしてきました。現在は、その上に「医療」と言う言葉を載せ、病院でその生活困難状況が「病気」に起因する人たちを対象に、「医療ソーシャルワーカー」として仕事をしています。
   病気に罹患し「患者」と言う特殊環境に陥った人たちが、病気が癒え、在宅へと戻っていくとき、その人たちは「生活者」となります。「患者」と言うある意味守られた世界から、一般社会の差別と偏見若しくは弱肉強食の世界へ戻るときの不安は、相当な勇気と決断を必要とするはずです。そこで「守られた世界」に居た人たちは少なからず躊躇し戸惑いそして不安を抱いてしまいます。「守られた世界」が長ければ長いほど、それに比例した形で、それらは大きなものになってしまいます。そういった困難状況を少しでも軽減し、また解決・解消の方向を、本人との面接を通して導き出していくのが医療現場で働くソーシャルワーカーの仕事となります。
   前回までさまざまな角度から対象者の理解のために「思い」としてお話をさせていただきました。今回はその人たちを「援助する人たちの思い」を述べ始めているわけですが、「援助者」と言う仕事をする我々の生きがいが一体何かと考えたとき、まず思いつくのが「不幸な人を助ける」と言う発想があります。それが私たちの使命感でもあり生きがいでもあります。それを出発点として、次に思いつくのが、「不幸な人なくす」ということに広がります。そのことの裏返しには、「不幸な人が居る」という思いが当然出てきます。そして、この仕事を押し進めていく結果には、「不幸な人はいなくなった」という帰結が出てきます。ということは、極論になりますが、私たちの仕事は必要とされなくなることが理想の世界であるという考えが導き出されて当然のことといえます。そこでは私たちの使命感や生きがいは消失することになります。そこには当然のことですが、立場の逆転が起こります。仕事をなくし使命感や生きがいを失った私たちが「不幸な人」になってしまうのです。
   整理しますと、短絡的で申し訳ないのですが、対人援助の仕事は、「不幸な人」が居ることで成立する仕事だともいえるのです。「不幸な人」が居ることで感じることができるのが、援助者の生きがいだということなのです。もっというならば「不幸な人がいなくなると困る仕事」なのです。非常に矛盾しています。
   さて、「援助者(相談を受ける人)」という範疇には、先生、研究者、政治家、医師、看護師、宗教家、カウンセラー、そしてソーシャルワーカー等さまざまな人たちが居ます。「被援助者(援助を必要とする人)」には、恵まれない人、不安を抱く人、病気や外傷をしている人、人生に悩む人等、さまざまな形態があります。この人たちが、援助者に相談・援助という関係を結ぶことで、解決・解消していきます。
   しかし、前述の考えからすると、本当に「困る」人は、「援助者」なのか「被援助者」なのかということが、はっきりと区別できない関係にあるということがお解かりいただけると思います。
考えなければならないのは、卵が先か鶏が先かということです。「不幸的ニーズがあって援助活動が成立するのか」「援助的ニーズがあって援助が成立するのか」と言うことです。大いなる究明困難な問題でもあるようです。
   今まで私たちやその先達は「被援助者のニーズ」について、これまで詳細にかつ科学的に調査・研究してきました。しかし、「援助者のニーズ」ということは、ほとんど何もなされてきませんでした。このことは、被援助者に比べ社会的に強い立場にある援助者の理論が優先した結果だと思います。しかも、社会的強者の立場にある援助者のニーズは多様で、ここには複雑な動機やもくろみが無意識的に隠されている場合が往々にしてあるということを、故意に忘れ去ってしまっていたということです。
   またこのことは、被援助者に比べて社会的に強い立場にある援助者の理論の優先ということです。もう少しいうならば被援助者の「不幸」という問題を援助者が限定してしまい、それは閉ざされた[不幸]になっているということであり、言ってしまえば、社会的強者である援助者のニーズに被援助者のニーズが利用されてしまっているという結果も、決して否めない事実なのです。
   こういった[不幸]の操作を無くすためには、本来ならば援助者のニーズをまずは検討されなければならないということなのです。偏った「ニーズ」限定が行われて、援助者にとって解決できそうな被援助者のニーズばかり、その成果や実績、普遍性を導き出す為だけの援助活動ではなかったかということです。
       
<2>へつづく →

Yamamoto福祉介護研究会
代表 山本亮一
 この福祉のコーナーへのご意見、ご感想、山本亮一さんへのお便りも、編集部あていただければ幸いです。

(編集長 堀川貴子 記)
E-mail : nagi@nagi-web.com

このページのトップへ このカテゴリの目次へ