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こころの病気について

≫『うつ』を知る

<3>治療について
    うつ病の治療は、その目的と内容から3つの時期に分けられると考えてよいでしょう。
@ 治療導入期・・・
    ここで重要なことは、抑うつ状態に陥ったことで本人が感じている二次的な不安やストレスを取り除く外的内的環境を、いかにしてスムーズに作り上げるか、ということです。初めて外来受診された時点では、患者さんの多くは、周囲の人から、「気の持ちようだ、しっかりしろ」と励まされ疲れており、怠けていると思われているであろうことを最も苦にしています。今の状態は堂々とした病気であり、しかも、適切な治療さえ受ければ必ず治る病気であることを、明確に本人と周囲の人に告げる必要があります(本人にだけ告げてもほとんどその意味をなしません)。その上で、客観的に見て可能な限り、本人が静養できる環境を設定することになります。加えて、治療中は原則として、例えば仕事を辞めてしまう等のいかなる重要な決定も、延期することを奨め約束し(この時点では患者さんは少なからず悲観的になっており、およそ冷静で適切な決断を下す状況とは対極にあるからです)、治療中の症状の経過や見込み、使う薬剤の効果や副作用等を、予測できえる限り説明することになります。
A 治療前期・・・
    まず当面の目標は「精神の疲れをとり、気持ちの安定を取り戻す」ことであり、心の受けたダメージそのものに対するケアの時期と言ってよいでしょう。安心できる環境や薬剤を提供することにより、普通はまず睡眠が改善し、次に抑うつ感や不安感が軽減し、その後に意欲が戻ってくるといった経過をとることが多いようです。
B 治療後期・・・
    ある程度気持ちにゆとりが出てきたら、一度傷ついた自己評価の回復を援助しながら、うつ病になりやすい(喪失体験に敏感な)性格傾向、認知の仕方に対してのカウンセリングが行われます。その方法や、かかわる程度やケースによって異なりますが、基本的には、そういう脆さもあることを認識していただいた上で、喪失体験を避ける努力より(それは生きてゆく限り不可能ですから)新しい受け止め方を模索するなどして、上手に乗り越えるための準備をしておくことを奨め、アドバイスをします。例えて言うなら、渋滞に巻き込まれても困らずにすむように地図を見せて、あらかじめ抜け道を知っておこうということです。決して車そのものが故障して動かなくなってしまう訳ではないのですから・・・。
   このように、うつ病の治療がスムーズに行くためには、家族や周囲の理解と協力が不可欠です。加えて、予防のためには、この機会を通して、自分の性格の弱点を的確に認識することが必要です。一番強いのは、弱点がない人ではなく(そんな人はあり得ません)自分の弱点を知っていて、なおかつ、曖昧にしない人なのです。

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院長/堀川 喜朗


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