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こころの喫茶室


≫春雑感

    荒涼とした大地に新たな命 芽吹く頃、人の心は確かに動き出す。
    太古の、人がまだ人類と呼べぬ頃から連綿と受け継がれてきた原始の神経たちが俄かに騒ぎ出し、時としてそれは その歴史から比べればほんのわずかな時間で獲得したにすぎない大脳皮質の機能、即ち、『理性』等を軽く凌駕し、心はその支配下におかれる。これがいわゆる感性の昂ぶりが惹き起こす『春のざわめき』である。
    しかし一方でそうした時期にもかかわらず、多くの人は春に大いなる期待を抱いてきた。何かと出会い、始まり、生まれ、それまでの『鬱々』と決別し、ほぐされ、充たされることを願ってきた。
    そんな過敏さと期待が錯綜する微妙な心の揺れの中で、我々は、"冬の試練に耐え抜いた選ばれし者"としてそれぞれの春を迎え、味わうこととなる。とにかく誰もが、『感性の人』となる条件はそろった。そこに自然はありとあらゆる刺激をやつぎばやに送り続ける。様々な色彩、匂い、思いがけぬ寒暖、やがて粘膜の主と化す花の粉、かすみとみまがう黄色い砂の大群、我々はそのどれにも律義に反応する。なかんずく、淡きピンクの花たちの動向は、毎日、新聞の紙面にさえ登場し、そしてその盛りを期に、我々の反応はついに頂点に達するのである。


久留米セントラルクリニック
堀川 喜朗

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